早稲田駅から歩くこと約7分、白い建物の周囲に人が集まっていく様子が目に入る。ここが、国内外のアートファン、草間彌生ファンが集う「草間彌生美術館」だ。
前衛芸術家・草間彌生が設立し、2017年10月に開館したこの美術館では、草間作品を約年2回の展覧会にて紹介し、講演会なども催されている。2024年4月27日(土)~ 2024年9月1日(日)の期間は、「草間彌生、具象を描く」が開催されている。
1階のエントランス右手には、ボートを用いたソフト・スカルプチュアの最新作《赤熱の海を行く》(2024)が展示されている。ここでの展示が世界初公開となる。1960年代から制作された、無数の突起物を蝟集させた異形のボートは、ニューヨークのアートの最先端を突き進む彼女の決然たる意志のシンボルとも言える。
2階では、キャリアの初期から2000年代初頭にかけての草間作品の具象表現を概観する。渡米前のスケッチや日本画をはじめ、70~90年代に集中的に取り組んでいたコラージュ、1979年に着手して以降おびただしい点数を手がけている版画などには、具象的な描写が多く見られる。
また、おさげ姿に着物の出で立ちをした草間が、ニューヨークのストリートを歩くハプニング記録をスライドショーにまとめた《ウォーキング・ピース》(1966)にも注目してほしい。
3階では、2000年代以降の草間の画業を代表する絵画連作やソフト・スカルプチュアなどの中から、重要なモチーフである自画像を含むさまざまな人物像を表現した作品群が並ぶ。エレベーター前の約2メートル四方の大画面キャンバスは、計800点以上を完成させたアクリル絵画作品の連作《わが永遠の魂》(2019〜2021)の絵画群の一部だ。
4階ギャラリーでは、草間彌生美術館の開館を記念して制作されたミラールーム作品《無限の彼方へかぼちゃは愛を叫んでゆく》(2017)が展示されている。ミラールームは、1960年代から草間が継続的に制作している、鏡を用いた役入型のインスタレーション作品のシリーズ。
合わせ鏡の反射によって水玉かぼちゃがどこまでも空間に広がり、宇宙に浮かび上がるかぼちゃ畑の中にいるような不思議な感覚が呼び起こされる。
無限の彼方へかぼちゃは愛を叫んでゆく(2017年)
私の最愛のかぼちゃ。世の中の様々な植物の中で私の最愛のかぼちゃ。
私はかぼちゃを見る時に、かぼちゃは私の全てであるという喜びと、
畏敬の念を拭い去ることは出来ませんでした。
そのようなかぼちゃから生まれ出た威厳と、永久に尽きることなき人間たちへの愛の姿を私はこの鏡の部屋に閉じ込めました。
この広大なかぼちゃ畑を見てこれからの人間の生き様を是非見つけてください。
そして、みなさん自身の人生の生き様を見出してください。
草間彌生
5F 屋上ギャラリーでは、再び「かぼちゃ」に出会うことができる。青空とのコントラストも鮮やかな《大いなる巨大な南瓜》(2024)は、恰幅の良いでっぷりとした造形が愛らしい。
種苗業を営む旧家に生まれた草間にとって、花や植物は幼いころから常に身近にある親しみ深い存在だった。中でも「じんせいのはんりょ」あるいは「わたしのこころ」とも表現するかぼちゃの作品は、草間自身と分かちがたく結びついた自画像のような存在だ。作家の幻覚ヴィジョンが唐突に私たちの目の前に現れたような本作のあっけらかんとした佇まいに、孤高でありながらもどこかチャーミングな草間の姿が重なるはずだ。
コンパクトな展覧会だからこそ、キャリアの初期から現在に至るまで、草間の具象表現の変化を体感できる機会になるはずだ。
📍草間彌生美術館(東京都新宿区弁天町107)
👉公式サイト
⏰11:00〜17:30
※入場は日時指定の完全予約・定員制。チケットは美術館ウェブサイトのみで販売しており、美術館窓口では販売していません。